世界初HDR適合スクリーン

HF102レイロドール開発ストーリー

第1回 なぜピュアマットなのか

レイロドール(生地型式HF102)は、世界初のHDR適合スクリーンとして2017年9月デビューをしてから、驚くほどのスピードでホームシアター市場に浸透しています。そこでホームシアターファンの方々へ、レイロドールの開発の裏話を3回に分けてお伝えしたいと思います。第1回は生地のベースになったピュアマットのお話しです。

REIRODORUチラシレイロドール(HF102)の開発のベースに流れるのは、ピュアマットの歴史です。2000年に以後の開発の基本となる試作反をプロジェクター関係者にお披露目したピュアマットの原点は、「スクリーンゲイン一辺倒」であった当時のスクリーンへの解釈に、「リファレンスとして均質な画質を再現できる拡散型の生地」という新しい考え方の提案をしたところから始まります。
今でこそ、スクリーンの販売の80%を超えるホワイトマット(拡散型)ですが、プロジェクターの輝度が充分でない当時は、どうしてもハイゲインスクリーンに目が行きがちでした。その市場ニーズの中で生地の原点である織物に着目し、開発されたのがピュアマット101(WF101)です。その時の評価は「暗いが、プロジェクターの調整に素直に反応するスクリーン」という好意的なものでした。

そこから市販化に向けた開発に拍車がかかり、2002年グレーバックのピュアマットⅡ(WF201)、2004年ブラックバックのピュアマットⅡPlus(WF202)が誕生し、市場の認知を戴けたのはまだ記憶に新しいところです。
その後のピュアマットの開発は2010年フルHD対応の表面仕上げのピュアマットⅡEx(WF203)へ進化しました。そして4Kプロジェクターの市場投入に即応し、ピュアマットⅢ(WF301)が誕生したのです。

ピュアマットにはオーエスのスクリーンへのこだわりと生地開発の歴史が凝縮されています。映像技術が4KからHDR、8K、と進化するごとに、技術的な原点に立ち返る。その意味でも基本になるのはピュアマットなのです。

映像技術の長足の進歩

2013年に発売された4K対応スクリーンピュアマットⅢ(WF301)は、WF203までの糸の太さを半分にしています。その糸の細さから張込式スクリーン(PA)のみの販売でしたが、すぐその翌年2014年には巻き上げ式のスクリーンに対応させたピュアマットⅢCinema(WF302)を発表いたしました。WF302は現在でも最高級の4K対応スクリーンです。その精緻な幕面は8Kにも十分対応する仕上がりを誇ります。
しかしその時すでに次の技術が発表されています。2012年の国際電気通信連合の勧告HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)です。当初はHDRという略号の意味さえよくわからない状態でしたが、それとは別にWF302の開発の初期段階からピュアマット次世代の課題が討議されていました。

  1. プロジェクター画素と干渉しない限りなくフラットできめ細かなスクリーン。
  2. ゲイン0.9を更に高くしたい
  3. ピュアマットの落ち着いた映像は失いたくない。もっと黒を締めたい。
  4. 4Kはスクリーンの大型化が予測される。フルHD登場時には80インチが標準だったスクリーンが100インチ標準になったように、4K登場により120インチが標準になるだろう。その時に輝度補正が必要になる。

ピュアマットⅢCinema(WF302)は、結果的にマットスクリーン最大のゲイン1.0を実現しています。
この技術をベースに次のHDRスクリーンの開発を模索していきました。

スクリーンの開発課題とは

一口にスクリーン開発と言っても開発ポイントは多岐にわたります。

  1. 映像性:癖がない。プロジェクター性能を素直に反映できること、モアレ、視野角等
  2. 平面性:WF301は巻き取りができませんでした
  3. 遮光性:迷光、有害光にどの程度影響されるか
  4. 巻取性:WF301の改良型がWF302です
  5. 表面強度:汚れが付きにくいか
  6. マスクの加工性:HF102のマスク付きの発売が遅れた理由です
  7. 環境評価:ピュアマットは脱塩ビの環境にやさしいスクリーンです

これらのポイントをクリアした結果生まれた、究極のピュアマットがWF302です。最高級の完全拡散型のスクリーンです。
HDRの開発に関しては、これらを経過してきた技術的裏付けが生かされています。そのためHDRの開発課題は一つに絞り込むことができました。

第2回 HDRスクリーンの開発課題

HDRにふさわしいスクリーン開発も基本は同じです。しかし達成したい目標は「明から明へ、暗から暗へ」たった一つの、それでいて大変難しい課題です。

プロジェクターの光を受けたスクリーン上では、黒い部分(光量が少ない)とその他の色(光量が多い)が同時に存在し、黒がその他の色へ、その他の色が黒へ互いに干渉し、それぞれの色の境界が甘くなります。HDR映像の精細かつ幅広い階調表現を実現するには、今までのスクリーン以上に迷光や有害光の影響を受けにくくしなければなりません。開発陣はピュアマットの開発の原点であるハイゲインスクリーン神話に再び立ち返って検証する必要がありました。

なぜピュアマットが必要になったのか?なぜハイゲインスクリーンからの脱却を目指したのか?当時ハイゲインスクリーンは、プロジェクターの光量を補うためのものでありました。(今でもビーズスクリーンは同じような目的で使用されることが多いスクリーンです)そのため多少の色バランスの悪さも、ホットスポットなど多少の輝度ムラも二の次になっていたようです。そのため均質な映像再現というテーマでファブリックへの挑戦が始まったわけです。

幸い6代目のWF302の織り目はごく精緻な仕上がりを実現し、この生地をベースにすることで4Kの画素を映し出すには申し分なく、4K映像のBT2020の精細な色域、及びHDRの広い階調表現が可能になると判断できました。
ゲインを高くすることで、明るいシーンの再現性を追い、迷光を防ぐことで暗い調子を深めプラスマイナスで広い諧調を確保する。という事は当時のハイゲインスクリーンの評価を解決する必要がありました。というのもHDR再現のためにはゲイン1.0以上の反射率が必要と考えたためです。

方向は決まった。具体的に踏み出すには

「明るい部分は明るく、暗い部分は暗く」と光学的には相反する性質を同一の素材上で実現しなければならない為、まずゲインを上げるスクリーン表面のコーティング処理に取り組むことになりました。

そこで忘れてはならないのはピュアマット本来の画質を損なうことがないように拡散型の特性も保持するという事です。既存のスクリーンの反射特性(拡散型、回帰型、反射型)にはそれぞれ短所と長所が存在します。開発の過程においては短所を改善することに着目しがちですが、今回の開発においては発想を転換し、既存のスクリーン生地の反射特性の長所をすべて取り込むことで互いの短所を補い合い、幅広い階調表現と精細な色域を実現できるのでは、と考え、コーティング材の材料選定、配合を決定する為の試作を繰り返しました。

ハイゲイン実現のためには、回帰型、反射型の特性が寄与することはある程度想定していましたが、開発陣が再認識したのはピュアマットの素材の素晴らしさでした。広い視野角の確保が精細な映像再現に大きく寄与している点には、ピュアマットを熟知している開発陣でさえ驚嘆させられました。

試作を繰り返しながら大変参考にさせていただいたのが評論家三氏による2012年の試作反をご覧いただいた時の評価です。ピュアマットⅢ開発時のテストデータがHDR開発の大きなヒントになったのです。ビーズ混入、パール混入によるそれぞれによるピュアマットの特性を殺さず、高ゲインにありがちなホットスポット低減を実現させるには、ビーズタイプ、パールタイプの異なる二つの性質を利用することがポイントと思われました。

技術的にはピュアマットⅢベースのファブリックに特殊コーティングを施すことにより、拡散型の特性を活かしつつ、反射型・回帰型の特性を一つの幕面で同時に存在させることができました。

2012年の試作品テストから積算すると都合5年の歳月を経過したことになります。最終的に、ハイゲインで有害光にも比較的強い反射特性が得られ、スクリーンの画面内の視聴ポジションであれば、反射特性曲線の数値からは想像できないほどの良好なHDR特性をご覧いただけ、またスクリーンの外の画角でも、ピュアマット相当の画質を楽しんでいただける特性を確保することができました。

第3回 HDRスクリーンの技術解説

明るい部分はゲインを高くすることで明るくなります。しかし単純なハイゲインスクリーンではホットスポットが出てしまい。光軸に近い部分とスクリーン周辺部では明るさに格段の差が出ます。そこに拡散型の性質をプラスしたことで、極端なゲインの落ち込みを防ぐことができます。

黒い部分は、隣り合う明るい部分との境界で、光の反射がまじりあう事をできるだけ防ぐ、言わば回帰型のような特性により、明るい部分に影響され難くより黒を表現できます。別の視点で言うと、明暗だけでなく、色の純度も高くなることを意味します。

この異なる反射特性の共存により、コントラスト比が上がり、しかも色の階調も非常に広くなり、広階調と名付ける所以となりました。全てのHDRプロジェクターのそれぞれの特性をそのまま結像することができるスクリーンになりました。

なぜゲイン2.7なのか?その理由は

HF102はなぜゲイン2.7なのでしょうか? ゲイン=輝度を上げることは技術的には比較的簡単に出来ます。さらにプロジェクターのHDR機能を十分に引き出すためには高輝度が欲しい。とも言われます。しかし私たちはゲイン2.7で製品化しました。その理由はホットスポットを生じさせないで、スクリーンの端でも反射型並みの映像を楽しめる事。その限界点がゲイン2.7なのです。その結果、反射特性曲線のゲインの落ち込みには考えられないような、スクリーン全体の均一性が生まれたのです。

メーカー各社によるシュートアウト

実にタイミングよく、メーカー3社のHDRプロジェクターによる、同一条件下でのシュートアウト用スクリーンとしてレイロドールが選ばれました。準備には半年以上もかかり、4回以上の関係者ミーティングをへて、2017年6月、120インチのレイロドールに、各社を代表するHDRプロジェクターから映像が放たれる瞬間が来ました。

まず4Kスクリーンの最高峰と自負するゲイン1.0のピュアマットⅢ Cinema (WF302)を使用したHDR技術解説の後、ゲイン2.7のHF101(レイロドールという名前はまだありませんでした)による映画コンテンツの上映です。その結果、各プロジェクターメーカーの皆様から頂いた共通の感想は「ハイゲインなのにホットスポットが見えず、HDR感が良く出るスクリーンだ」という言葉でした。

この結果を基に、量産品としてHF102がブラッシュアップされレイロドールが誕生しました。

なぜHDR適合スクリーンとうたっているのか

よく言われる「対応」ではなく「適合」なのか?疑問に思われる方も多いことと思います。 4K対応のWF302は、既存のピュアマットの拡散型の性質を変えずに練り上げた製品で、2Kにももちろん対応するオールマイティなスクリーンであり、レイロドール(HF102)はHDRという規格に合わせ、HDRプロジェクターの特性を最大限に引き出すことを目的に特化して作りあげた製品だからです。

結果的に広階調型という全く新しい反射特性を獲得することができました。

レイロドールのネーミングも開発の想いを込めています。RESOLUSIONのREに日本語のIRODORUを重ねた造語です。深い彩りを生みだす解像力という意味を込めました。

最後に

レイロドールは、ご注文をいただいてから一枚ずつコーティング作業を行うとても繊細な製品です。そのためコーティング材料の開発にとどまらず、コーティング装置による機械生産を採用しています。従来の人の手によって吹き付けを行う方法では、表面の状態をムラ無く均一に仕上げることは難易度が高く、職人の感覚や経験に委ねられる部分が多くなってしまいます。スクリーンの老舗メーカーとして、安定した品質のスクリーンを供給し続けることは重要なポイントで、結果的に機械でコーティングする以外に方法はないとの結論になりました。

とは言え汎用のコーティング装置では対応できずコーティング装置の設計から始めることになりました。コーティングの機械化については、手作業による試作にて確立した条件を機械作業へ置き換える際の条件の再設定に苦慮しました。その結果、機械作業では手作業に比べ均一な加工ができるので、条件の微調整が必要なことはあらかじめ承知はしていても、想定以上に均一な加工ができるのには驚いています。均一に加工できることで、品質を安定することができ、機械化の工数低減に加え、コーティング材の使用量低減にも繋げることができており、価格の安定にもつなげることができると思っています。

ぜひ、世界で一つだけのあなたのHDRスクリーンシアターのために、私どもの手塩にかけたレイロドールをご愛用ください。